前代未聞の「節ガス」が呼びかけられる事態はなぜ発生したのか、日本や国際社会が置かれている厳しい現状を解説します。
ガス不足の懸念が高まっている理由
ロシア情勢が最大の原因
ガス不足はロシア情勢によって引き起こされたと言えます。
相次ぐロシアへの禁輸措置でガスの需給が逼迫
西側諸国はロシアによるウクライナ侵攻を受け、相次いでロシア産の天然ガスの禁輸、あるいは輸入量の削減を打ち出しています。
欧州を中心に、これまでロシア産の天然ガスに依存していた国は少なくありません。天然ガスのロシア依存度はドイツで43%、イタリアで31%、フランスで27%(いずれも2020年)と欧州主要国を中心に高い割合でした。
この高いロシア依存度を速やかに引き下げようと、各国はロシア以外の国からの代替調達を急いでいます。カタール、米国、エジプトなどがその有力候補ですが、天然ガスの生産量は一朝一夕に増やせるものではありません。また、特に欧州ではこれまでパイプラインによるロシアからの輸入に依存していたため、LNG(液化天然ガス)を受け入れる設備や運ぶためのLNG運搬船も不足しています。
このようにロシア情勢を受けて、世界各国が天然ガスの「取り合い」になっていることで需給が逼迫、また価格が高騰していることがガス不足の要因の一つと言えます。
ガス輸出を外交カードに使うロシア側の姿勢も
ロシアは天然ガスの輸出を外交カードとして使用しています。
2022年6月には、ロシアからドイツにパイプラインで送られていた天然ガスの量が、突如として60%削減される事態が発生しました。ロシアに対し圧力を強める西側諸国への揺さぶりと見られています。
ロシアにとって天然ガスは輸出金額の9%を占める品目ではあるものの、輸出額に占めるシェアは原油や石油製品と比較して大幅に小さいため、原油よりも天然ガスの方が外交カードとしては使いやすい(自国へのダメージが少ない)という事情があります。
日本の天然ガスのロシア依存度は9%(2021年)とされています。政府や民間企業が出資したサハリン2(ロシアからの天然ガス輸入量の大部分を生産しているプロジェクト)について、ロシア政府は同国企業に運営を移管させる大統領令を出しました。この大統領令により、ロシアからの天然ガスの輸入が滞る懸念が急激に高まっており、節ガスという話が日本国内でも取り沙汰されるようになりました。
日本の電力不足懸念の影響も
日本では2022年夏のも電力不足の懸念が高まる事態が起きていますが、2023年1・2月には更に深刻な電力不足の発生が懸念されています。
このような状況下では電源構成の約4割を占めるLNG火力発電所が最大限に発電をすることが期待されていますが、十分な燃料を調達できなくては十分に発電することが出来ず、電力不足が深刻化します。2021年1月には新型コロナの影響によりLNGの輸入が一時滞り、LNG火力発電所が発電出力を落としたことで1ヶ月にわたり全国で電力不足と言える事態が発生しています。
日本の発電量に占めるロシア産天然ガスによる発電のシェアは3%程度と言われています。ロシアからの天然ガス輸入が滞ることで、電力不足がより一層深刻なものとなることは自明です。
ロシアがここに目をつけて、日本に揺さぶりを掛けてくる危険性は否定できず、日本のガス不足懸念を高める原因の一つとなっています。
節ガスの目標は?
日本のロシア依存度は9%
日本の天然ガス輸入量の9%をロシアが占めています。この9%が無くともやりくり出来るように、使用量を9%減らすよう努力することを「目標」とすることが一つの目安となります。
天然ガス輸入量の約6割が発電用に使用されているため、都市ガスの使用量を削減するだけでなく、節電も重要となります。ロシア産天然ガスによる発電量は、発電量全体の3%程度とされているので、電気の使用量も3%以上削減することを目標とすべきでしょう。
特効薬は原発再稼働
日本では2011年に発生した重大な原発事故の影響を受け、多くの原子力発電所が稼働を停止しています。一方、その重大な事故をふまえて新たに作られた世界で最も厳しい安全基準に合格しながらも、様々な理由から稼働を再開出来ずにいる原子力発電所も存在しています。
安全が確認された原子力発電所の稼働を進めていくことで、天然ガス不足を一挙に改善することが出来ます。