日本のガス供給にロシアは影響を与えるのか
非人道的かつ非合法な形でウクライナに対し一方的な侵略行為に及んだロシア。日本はそのロシアから天然ガス(LNG)や原油の輸入を行っているわけですが、この問題は都市ガス供給にどのような影響を及ぼすのか検証します。
目次
ロシアによる侵略行為に抗議する国際社会
まずは現在の情勢をまとめます。
進むロシアへの経済制裁
一方的な侵略行為に及んだロシアに対し、多くの国々が経済制裁の実施を検討しています。中でも国際的な資金決済に利用されているSWIFTからロシアを除外する措置が注目を集めています。
このまま緊張が高まることでロシアからの資源輸入が難しくなるのではないかという懸念が出ています。また既にロシアからの資源輸出に支障も出ている状況です。ロシアからのタンカーがイギリスに入港できない事態も生じています。
ロシアからの対抗処置への懸念も
西側諸国を中心とした経済制裁に対し、ロシアは報復処置を行うことを繰り返し表明しています。報復処置の中に天然ガスや原油などの輸出規制が含まれた場合、特に燃料のロシア依存度が高い欧州は途端に深刻なエネルギー不足に陥ると懸念されています。
3月1日時点で、ロシアはノルドストリーム1などを通じた欧州への天然ガス供給は停止していない状況ですが、今度ロシアがより強硬な姿勢に転じた場合は欧州で深刻なエネルギー不足が生じるリスクが指摘されています。
日本のロシア産天然ガスの輸入状況
天然ガスの50%近くをロシアからの供給に依存しているドイツやイタリアほどではありませんが、日本もロシアに資源調達を依存している部分があります。
LNG輸入量の8.3%をロシアに頼る日本
日本はロシアとパイプラインでの接続がありませんが、主にサハリンで産出された天然ガスを液化し、液化天然ガス(LNG)として船で輸入しています。
2019年に日本が輸入したLNGの内、ロシア産が占める割合は8.3%です。欧州ほど高い依存度ではありませんが、無視できるほど小さな割合でもないことが分かります。
ちなみに、天然ガスというと「都市ガス」に使われるイメージがあり、実際に都市ガスの主原料であることは間違いありませんが、日本でのLNGの用途の37%が都市ガス用、残りの63%は発電用となっており、天然ガスの輸入が途絶えることによる影響は電力供給にも及びます。
各社のロシア依存度は
主なガス会社のロシア依存度をまとめます。
- 東京ガス LNG調達量の約1割がロシアから
- 大阪ガス ロシア産LNGの比率は「低い」
- 東邦ガス LNG調達量の2割がロシア産
- 広島ガス LNG購入量の5割がロシア産
都市ガス会社の中でも特に規模が大きな大手3社のロシア依存度は1〜2割であるのに対し、広島ガスは5割がロシア産と大きく依存している状況です。
ロシアからの輸入停滞による影響は
では今後、ロシアからのLNG輸入に支障が出る事態となった場合、どのような影響が出るのでしょうか。
ガス供給が止まる事態は考えづらい
ロシアからの輸入が滞ることで日本でも都市ガスの供給に支障が出るのではないかと不安を覚える人も少なくないでしょう。ですが私は都市ガスの供給に支障が出るリスクは低いと考えています。その理由を以下に列挙します。
- 日本全体のロシア依存度は1割未満
- 中国がロシア産ガスの輸入を増やす(他からの輸入が減る)
- 日本のLNG調達は長期契約がメイン
- 国内原子力発電所の再稼働などの「選択肢」が残されている
日本はLNGを主に長期契約で海外から輸入しています。LNGが「余った」時の転売が出来ないなどの制約が設けられている反面、安定した調達が可能です。スポット調達で慌ててLNGの調達に奔走している欧州とは状況が大きく異なります。
それに加え、中国の動向も大きいです。中国はロシアに対する経済制裁に同調しない方針を示しており、今後もロシアとの貿易が継続する公算です。過去、西側諸国がイランに対して経済制裁を行った際に中国はイラン産原油の輸入を第三国を経由するなどして継続していました。ロシアからの天然ガスの輸入を継続、あるいは他の産地よりも安い価格で調達できるとなればロシアからの輸入を増やす可能性もあります。欧州ではそもそもLNGを受け入れるLNG基地が限界に達しておりこれ以上大きく輸入を増やすことが難しいと言われています。日本が輸入するLNGへの影響はそれほど大きくはならないでしょう。
東京電力福島第一原発事故以来、国内では多くの原発が稼働を停止しています。LNGが足りず、都市ガスや電力の供給に深刻な影響が出るというのであれば、それらの原発の中で安全審査が完了したものを緊急対応として稼働させるという選択肢も残されています。原発が稼働することでその分、LNG火力発電所の稼働を抑えることができ、国内のLNG需要にゆとりが生まれます。
ロシアからのエネルギー輸入が今すぐに停止すると「どうしようもない」欧州(特にドイツ、イタリアなど)とは異なり、日本への影響は小さいと言えますし、取れる対策も残された状況にあると言えます。
とはいえ、ロシア依存度が高いいくつかのガス・電力会社は急騰するスポットでの調達を増やさざるを得ず、今後数年にわたり収益を圧迫される事態となるリスクがあります。
省エネを心がけよう
日本国内のエネルギー供給に切迫した危険がある状況ではないとはいえ、ゆとりがある状況でないことは確かです。また、地政学的リスクの高まりにより燃料価格も高騰を続けています。
エネルギー価格高騰は、不当な侵略を続けるロシアに大きな利益をもたらします。ロシアによる侵略に抗議する世界中の人々が「省エネ」を心がけることで、エネルギー価格高騰を少しでも緩和し、ロシアに打撃を与えられるだけでなく、エネルギー高騰に苦しむ世界中の人々の助けにもなります。
今こそ、もう一段の省エネに取り組みましょう。
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